歯の健康と海馬萎縮進行との関連

Associations of Dental Health With the Progression of Hippocampal Atrophy in Community-Dwelling Individuals: The Ohasama Study.

Neurology. 2023 Sep 5;101(10):e1056-e1068. >>PubMed


【目的】
歯の喪失や歯周炎はアルツハイマー病(Alzheimer's disease: AD)の危険因子である可能性が示唆されているが、近年の縦断研究ではADの画像バイオマーカーである海馬萎縮との関連について否定的な結果が報告されている。この矛盾の背景として、重度歯周炎の患者では歯数が多いほど口腔内全体の炎症が増大することで逆に海馬萎縮を惹起している可能性が考えられる。そこで本研究では、地域在住の一般住民を対象として、歯周炎の重症度に依存した現在歯数(Number of teeth present:NTP)と海馬萎縮との縦断的関連を明らかにすることを目的とした。

【方法】
本研究では、岩手県花巻市大迫町に在住する認知機能低下のない55歳以上の地域一般住民を対象とし、4年間隔で2回、脳MRI検査と口腔および全身のデータ収集を行った。海馬体積はMRIから自動関心領域解析によって算出した。歯周炎の指標として平均歯周ポケット深さ(Periodontal probing depth: PD)を用いた。海馬体積の年間対称変化率(Symmetric percentage change: SPC)を従属変数とし、独立変数にNTPと平均PDの交互作用項を含む重回帰分析を行った。交互作用の詳細は、Johnson-Neyman法と単純傾斜分析を用いて検討した。感度分析として、海馬容積に対するNTP、平均PD、時間の3元交互作用を線形混合効果モデルにて解析し、NTPと時間の交互作用は平均PDの中央値で分割したサブグループで検討した。すべてのモデルにおいて、脱落バイアスを逆確率重み付けにより調整した。

【結果】
172名のデータを解析した。NTPと平均PDとの質的相互作用が、左海馬の年間SPCにおいて有意であった。左海馬の年間SPCに対するNTPの回帰係数は、低レベルの平均PD(平均-1SD)では正(B = 0.038, p = 0.026)、高レベルの平均PD(平均+1SD)では負(B = -0.054, p = 0.001)であった。線形混合効果モデルでも同様の結果が得られ、NTPと時間の交互作用は平均PDが高いサブグループで有意であった。

【結論】
軽度の歯周炎患者では歯の数が少ないほど左海馬の萎縮速度が速く、重度の歯周炎患者では歯の数が多いほど萎縮速度が速かった。単に多くの歯を残すだけでなく、歯周炎のない健康な歯を多く残すことの重要性が示唆された。